~鏡夜~
クリスマスも近い12月下旬。それは突然やってきた。
この俺にアポなしで会いに来て
なおかつ専務室に無理やり入り込もうとする人物との
久々の対面であった。
「ら、蘭花さん!?」
「なぁに、その『来てほしくなかったー』見たいな顔。」
「いえ、そんなことは決して…」
ドア付近にいた蘭花は、橘を押し退けて
ヒールをならしながらこちらへやって来た。
そして、とんでもないことを言った。
「鏡夜くん、ハルヒの父として大っ事な話があるんだけど、今、お暇かしら??」
会議などは入っていなかったが決して暇ではなかった。
むしろ忙しかったが、ここで断るとどうなってしまうのか。
蘭花の背後から、何やら殺気のようなものが伝わってくる。
「え、えぇ。30分くらいなら。」
あれを断れというほうが、おかしいと思う。
「あらぁ、忙しいのにごめんなさいねぇ。」
わかっているなら誘わないで欲しい、とも思うが
どこからどう聞いても皮肉っているとしか聞こえない口ぶりだ。
蘭花はこちらに満開の笑顔を向けると、すぐに橘の方を向いた。
「ねぇ、ちょーっと鏡夜くん借りるわよ。」
フフフっと笑うやいなや、俺の腕をぐいぐい引っ張って
橘を押し退け、鏡夜を外へ連れだした。
「鏡夜様!!!!」
「だっ、大丈夫だ。それより後を頼む。」
幸い、蘭花は仕事着ではなく、私服でメイクも薄かった。
しかし、どこからどう見てもオカマだ。
会社の者にそういう関係だと、勘違いされるのは気が引ける。
社員の白い目線を睨み返しつつ、蘭花に従うしかなかった。
タクシーで5分程度。
そのまま連れていかれた先というのは
「ここは…??」
「なあに??文句でもあるの??」
蘭花の勤務先。
つまりオカマバーだった。
「ほら入って入って!!」
電気がついていないのか、薄暗い店内だった。
今日は定休日らしく、蘭花の同僚の姿は見当たらない。
「鏡夜くん、こういうとこ初めてかしら??」
「あぁ、はい。」
「そうよねぇ。普通は来ないものねぇ。
あら緊張しなくていいのよ、そこらへん座んなさい。」
言われた通り席に座っていると
蘭花さんが飲み物を持ってきてくれた。
何やら茶色い液体がグラスに注がれていた。
「まさか、それ…」
ウイスキー!?
「いやぁねぇ。違うわよ、麦茶。
さすがの鏡夜くんでも、昼間っからウイスキーはキツいでしょ??」
暗いから見間違えたのか。これには鏡夜も苦笑いしてしまった。
お茶を一口もらったところで鏡夜は話を切り出した。
「で、お話とは…」
「あぁそうよね。」
蘭花さんは麦茶を一口飲むと話しだした。
「実はね、私、鏡夜くんには感謝してるのよ。」
「感謝…ですか??」