おまけです^^
その二人の男女は、寒空の下、神社へ向かう行列に並んでいた。
二人のそばには、黒いスーツを身にまとった三人の男が
こそこそ隠れていた。
「…まだか。」
「せっかちですね。こういうのはゆっくり待つものなんですよ。」
二人のうちの男は、なんだか不機嫌な様子だった。
「大体、こんなに寒いのにまだ待たせるのか。
この神社はどうなっている。」
彼は彼女に話しかける。
「嫌なら帰っていいですよ。」
彼女は言った。
「それじゃあ、約束が果たせないだろう。」
「じゃあ待っててください。」
はぁ、と彼は大きなため息をついた。
* * *
あれはクリスマスの朝。
「だから連絡しなかったことは昨日謝ったじゃないか。」
「ほんとに反省してるんですか?」
彼女は、彼を睨む。
「…じゃあ何をすればいい。何でもしてやる。」
彼女は急に笑顔になった。
「言いましたね!今言ったこと忘れたとか言ったら承知しませんよ。」
彼女はコートを羽織る。
「さ、行きますよ。」
「何処へ。」
「決まってるじゃないですか。」
彼女は、彼にコートを手渡した。
「何でもしてくれるんですよね?」
彼女はにっこりと笑った。
* * *
「…そういえば、あの時一緒に出かけてやったよな。」
「ええ。」
「約束はそれで果たされたんじゃないのか?」
彼女は彼を見る。
「何でもしてくれるって、回数制限あるんですか?」
「…。」
確かに、回数を指定した覚えはなかった。
彼は目頭を押さえる。
彼女は、クスクス笑った。
「冗談ですよ、これで最後にします。」
彼は安堵し、彼女は列の先の見た。
「あ、なんか配ってる。」
神社の巫女が何か飲み物を配っていた。
「どうぞー。」
手渡されたのは甘酒。
「…なんだこれ。」
「甘酒って言うんです。知らないんですか?」
「普通、こんなもの飲まないだろう。」
彼女は、甘酒を一口飲んだ。
「ふぅ…あったまるなぁ。」
「美味いのか。」
「甘くて美味しいですよ。酒粕を溶かしたものなんです。」
彼は顔をしかめつつも、一口飲んだ。
冷えた体の中を、甘酒がゆっくりと伝っていく。
体の心から温まるような感覚を味わっていた。
「ね、美味しいでしょう?」
「不味くはないと思うが…」
とかなんとか言いつつも、彼は全て飲み干してしまった。
「なんだ、美味しいんじゃないですか。」
「まぁ、飲めないこともない。」
そんな彼をにっこりと見つめ、彼女もコップの残りを飲み干した。
少しずつ、列が動いていく。
「もうすぐかな?」
彼女はぴょんぴょん背伸びをして、前を見る。
そんな姿が可愛くて、思わず抱きしめたくなった。
「落ち着けハルヒ。」
「別に落ち着いてますよ。
鏡夜先輩は背が高いからいいじゃないですか。」
そういえば、さっきから目線を感じる。
橘さんたちじゃなく、もっと痛い視線。
「…鏡夜先輩。女の子にものすごく見られているような気が…」
「そうか?」
彼はもう慣れているのだろうか。
さほど気にしてないらしい。
「なんか、自分と不釣合いとか思われてないですかね。
恋人じゃなくて、いとことか。」
「なんだ、そんな心配をしているのか。」
彼は彼女をぐっと抱き寄せた。
「ちょ、ちょっと、鏡夜先輩!?」
「嫌なのか。」
「っていうか人前ですよ。」
「それがどうした。」
彼は一呼吸おいていった。
「俺にとって大切なのは、お前だけだ。」
彼は彼女の耳元で囁く。
「もう、恥ずかしいこと言わないでくださいっ。」
彼女は赤面していた。
「どうして鏡夜先輩はそんな恥ずかしいこと平気で言えるんですか。」
「ハルヒが好きだからに決まっているだろう。」
「なんか違う人みたいですよ。」
「そうか?」
「甘酒で酔ったんじゃないですか?」
「そんなやわじゃない。」
彼女は恥ずかしがりながらも、彼の腕をしっかりと掴んでいた。
彼には、それが嬉しくて、しばらく二人はそのままだった。
そんな二人の空の上に、除夜の鐘が響き渡る。
「あ。」
「あけましておめでとう、ハルヒ。」
「おめでとうございます。鏡夜先輩。
今年もよろしくお願いしますね。」
「あぁ。よろしくな。」
だんだんと列が前へ進んでいく。
「やっとお参りできますね。」
「そうだな。」
彼女は財布から小銭を出す。
それにつられて彼も小銭を出した。
本当は、神頼みとかはしない主義なんだが。
二人の番になると、後ろの客の所為もあり、
すばやく参拝せざるをえなかった。
しかし、彼が終わった頃も、彼女はまだ手を合わせて祈っていた。
「ハルヒ、随分長かったが何をそんなに願っていたんだ?」
「こういうのは言っちゃいけないんです。
言ったら叶わなくなっちゃうんですよ。」
彼女は鼻歌を歌いながら上機嫌で歩いている。
「お前こそ、どうかしたか。なんだか壊れてるんじゃないか?」
「そんなことないですよ。さ、帰りましょ。」
彼の先を歩く彼女を見て
彼は、ふと思い出したように言った。
「そうだ。ハルヒ、今日は暇か?」
彼は唐突に聞いてきた。
「えぇ。父とおせちを食べた後は暇ですけど…」
「じゃあ出かけるぞ。」
「は!?」
「なにか不満かな。」
彼は得意の魔王様スマイルを見せる。
「いえいえ、とんでもございません。」
「それじゃあ11時ごろに迎えに行くからな。」
「あ、わかりました。」
「よし、帰るぞ。」
上機嫌になった彼は、彼女の手を握ったまま、待機させてある車の横を通りすぎ
彼女の家に向かって歩き出した。
夜空の星の光が、二人を優しく包んでいく…